【あらすじ&感想】王谷晶『ババヤガの夜』河出文庫- 女たちの怒りと連帯が夜を焼き尽くす

【あらすじ&感想】王谷晶『ババヤガの夜』- 女たちの怒りと連帯が夜を焼き尽くす 読書
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社会への言いようのない息苦しさを感じたことはありませんか? 理不尽な現実に、内なる怒りをどこにぶつければいいのか分からなくなる夜はありませんか?

もしあなたがそんな思いを抱えているのなら、ぜひ手に取ってほしい一冊があります。それが、王谷晶さん著、河出文庫出版の『ババヤガの夜』です。なんだかんだ書いてますが、書店のレジ横カウンターに平積みになってた本書の表紙がカッコよくて衝動買いしました。ジャケ買いです。

2023年に英国推理作家協会賞(CWA賞)の翻訳小説部門「インターナショナル・ダガー」を日本人として初めて受賞した本作は、単なるエンターテイメント小説にとどまりません。現代社会に生きる私たちが抱える痛みと怒りを鮮烈に描き出し、読者に強烈なカタルシスを与えてくれる傑作シスター・バイオレンスアクションです。シスターバイオレンスって何?って思ったあなた、私もそうでした。読めばわかりますよ。

今回は、そんな『ババヤガの夜』の気になるあらすじと、その魅力に迫ります。

物語のあらすじ

物語の主人公は、新道依子(しんどう よりこ)。彼女の趣味は、ただ一つ「暴力」。圧倒的な腕っぷしの強さを持ちながら、その力をひっそりと内に秘め、都会の片隅で暮らしていました。マジで笑えるくらいめっちゃ強いです。ストリートファイターシリーズの豪鬼(ごうき)みたいな雰囲気。

しかしある日、その暴力の才能をヤクザに見出され、関東最大規模の暴力団「内樹會」会長の一人娘、内樹尚子(うちき なおこ)の護衛兼運転手を強制的に務めることになります。

箱入り娘として育ち、感情を表に出さないミステリアスな美少女・尚子。野性的で何ものにも縛られない依子。出会うはずのなかった二人は、初めこそ反発し合いますが、共に過ごす時間の中で、それぞれが抱える孤独と絶望、そして社会に対する怒りを共有していきます。

やがて、組内の非情な抗争に巻き込まれた二人は、逃亡を余儀なくされます。追われる身となった彼女たちの間には、友情とも愛情ともつかない、唯一無二の強い絆が生まれていくのでした。

果たして、二人は地獄のような現実から逃げ切ることができるのか。そして、物語のタイトルにもなっている「ババヤガ」とは何を意味するのか――。血と硝煙の匂いが立ち込める夜を、二人の女が駆け抜けます。

『ババヤガの夜』の魅力とは?

本作の魅力は、スリリングな物語の展開だけではありません。読者の心を鷲掴みにする、いくつかの重要なテーマが織り込まれています。

1. 魂で結ばれる「シスターフッド」

本作の最大の魅力は、依子と尚子の間に育まれる「シスターフッド(女性同士の連帯)」です。暴力と男社会の論理が支配する世界で、二人は互いだけを頼りに生き抜いていきます。傷つけられ、搾取される存在として描かれがちな女性が、自らの意志と力で運命を切り拓いていく姿は、多くの読者に勇気を与えるでしょう。

2. 現代社会への鋭いカウンター

物語の背景には、性差別やルッキズム(外見至上主義)、貧困といった、現代社会が抱える問題が色濃く反映されています。「女だから」という理由だけで向けられる理不尽な視線や暴力に対し、依子が叩きつける拳は、私たち読者の心の叫びを代弁してくれるかのようです。

3. 疾走感あふれるバイオレンス・アクション

目を背けたくなるような凄惨な暴力描写も、本作を語る上では欠かせません。しかし、それは決して単なる残酷さの表現ではなく、登場人物たちの怒りや悲しみを体現する、物語の核心に迫るための重要な要素です。疾走感あふれる文章で描かれるアクションシーンは、まるで一本の映画を見ているかのような興奮を呼び起こします。

この本を読んで思ったんですが、僕は本当にバイオレンス・ハードボイルド小説が好きなんだなぁと再認識しました。白川道先生の『竜の道』とか大好きだもんなぁ。

こんな人におすすめ

  • 社会の理不尽さに息苦しさを感じている人
  • 女性同士の熱い連帯を描く「シスターフッド」の物語が好きな人
  • スカッと爽快なエンターテイメント小説を読みたい人
  • 心揺さぶられるハードボイルドな物語を求めている人

まとめ

『ババヤガの夜』は、血と暴力に彩られながらも、その中心には確かな希望と、人間への深い愛が描かれています。読み終えた後、あなたの心にはきっと、明日を生き抜くための新たな炎が灯っているはずです。

この世界に「鬼婆(ババヤガ)」として生まれ落ちた女たちの、切なくも美しい夜の物語。ぜひ、その目で見届けてください。

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