【藤田晋流】努力だけでは勝てない?「勝負強さ」の正体と、私たちが今すぐ捨てるべき「ある心理」

【藤田晋流】努力だけでは勝てない?「勝負強さ」の正体と、私たちが今すぐ捨てるべき「ある心理」 読書
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「せっかくここまで頑張ったんだから、もう少し続ければなんとかなるかもしれない……」

人生や仕事において、こんなふうに迷った経験はありませんか? 新しいことを始めるのは案外簡単ですが、「やめること」を決断するのは、始めることの何倍も難しいものです。

「もう少し粘れば」とズルズル続けた結果、傷口を広げてしまい、大きな損をしてしまった。そんな後悔を抱えている方にこそ、今回ご紹介する内容は特効薬になるはずです。

この記事では、2026年の社長退任を公言しているサイバーエージェント社長・藤田晋さんが、ビジネスという戦場と、麻雀という不確実なゲームの中で培ってきた「勝負に勝つための思考技術」を解説します。

運任せではない、冷徹なまでの「判断の質」を高めるためのOS(思考基盤)を、一緒にインストールしていきましょう。


勝負強さは「運」ではなく「技術」である

本の概要:勝負強さは「運」ではなく「技術」である

今回取り上げるのは、藤田晋さんの集大成とも言える著書『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』です。

藤田さんといえば、若くして起業し、IT業界のトップを走り続けてきた経営者でありながら、麻雀の最強位を獲得するほどの勝負師でもあります。

多くの人は「勝負強さ」を、持って生まれた才能や運の強さだと考えがちです。しかし藤田さんは、「勝負強さは運ではなく、判断の質である」と言い切ります。

本書は、感情に流されず、勝てる確率の高い方へ冷静にチップを張り続けるための「3つの鉄則」を公開した、現代の勝負のバイブルです。


重要なポイント3選:藤田流「勝てるOS」の正体

重要なポイント3選:藤田流「勝てるOS」の正体

それでは、あなたの決断の質を劇的に高めるための3つのポイントを深掘りしていきましょう。

1. 勝負は「期待値」と「撤退」で決まる

1. 勝負は「期待値」と「撤退」で決まる

まず一つ目のポイントは、勝負の核となる考え方です。藤田さんは、勝負において重要なのは「期待値」という判断基準を持つことだと説きます。

専門用語解説:期待値(きたいち)とは?
「その行動をとった時に、平均してどれくらいのリターン(利益)が見込めるか」という数値のことです。

例えば、失敗する確率が90%もあるプロジェクトがあったとします。普通なら「危ないからやめておこう」と怖気づいてしまいますよね。 しかし、もし成功した時のリターンが10倍、20倍にもなるとしたらどうでしょうか? 計算上の「トータルでの期待値」はプラスになります。

勝てる人というのは、この計算が瞬時にできたら、恐怖心という感情を排除してリスクを取りに行ける人のことです。かつてサイバーエージェントが、ガラケー全盛期にいち早くスマホ事業へ全振りした動きは、まさにこの「期待値」に基づいた決断でした。

最も重要なのは「撤退」の決断

しかし、攻めること以上に大事なのが「撤退」です。ここで私たちの邪魔をするのが「サンクコスト(埋没費用)」という心理的な罠です。

「これだけお金と時間をかけたんだからもったいない」 この感情こそが、最大の敵です。

藤田さんはこう言います。 「飲み食いで会社は潰れないが、ダメな事業をダラダラ続けることで会社は潰れる」。

「これはダメだ」と分かった瞬間、過去の投資をすべて切り捨てて、即座に勝負の席から降りる。この冷徹さを持てるかどうかが、長く生き残るための必須条件なのです。

2. 「洗面器に顔をつける」ような忍耐力を持つ

2. 「洗面器に顔をつける」ような忍耐力を持つ

二つ目のポイントは、非常にユニークかつ強烈な教えです。

麻雀というゲームは、4回のうち3回は上がれない、つまり「負け」か「我慢」の時間だそうです。これは仕事や人生も同じで、どんなに優秀な人でも不遇な時期やうまくいかない時期は必ず訪れます。

多くの人は、この苦しい時期に焦って無理な勝負に出たり、自暴自棄になって投げ出したりして自滅してしまいます。

しかし藤田さんのアプローチは違います。 不調な時こそ、「水を張った洗面器に顔をつけて、誰よりも長く息を止めて耐える」ような忍耐が必要だと説きます。

一見、何もしていないように見えるかもしれません。しかし、じっと耐えて致命傷を負わずに生き残ってさえいれば、必ず潮目は変わります。「待つこと」もまた、積極的な戦術の一つなのです。

苦しい時こそ、「今は洗面器に顔をつけている時期だ」と思い出してください。そうすれば、焦らずに次のチャンスを待つことができるはずです。

3. 「直感」と「データ」を使い分ける

3. 「直感」と「データ」を使い分ける

最後のポイントは、意思決定の迷いを断ち切るテクニックです。 何かを決める時、「自分の勘(直感)」を信じるべきか、「客観的なデータ」を信じるべきか、迷うことはありませんか?

本書の結論は非常に明確です。

  • 短期決戦や立ち上げ期: 「直感」で決める
  • 長期戦や運用期: 「データ」で決める

新しいことを始める時、その正解を示すデータなんてまだ世の中には存在しません。そんな時に会議を重ねてデータを集めようとするのは時間の無駄です。最初の「えいや!」は直感とスピードで決めるべきです。

しかし、一度走り出したら、そこからは冷徹にデータを監視して軌道修正していく必要があります。

さらに面白いのが「振り子の原理」という考え方です。 最初からバランスの取れた「正解の真ん中」を狙うのではなく、一度極端に振ってみるのです。

例えば、組織改革で思い切って人を減らしてみる。そこで問題が出たら少し戻す。中途半端にバランスを取ろうとするより、一度振り切ってから調整したほうが、結果的に早く正解にたどり着けるというわけです。


考察・感想:AI時代に残る「人間だけの価値」とは?

この本を読んで改めて痛感したのは、「AI時代には、人間の胆力(たんりょく)だけが価値を持つ」という真実です。

これからの時代、複雑な計算や確率の算出はAIが一瞬でやってくれます。「この勝負の期待値はプラスです」と、AIが教えてくれるでしょう。

しかし、その計算結果を見て、実際に「決断のボタンを押す」という行為や、結果が出るまでの間、「洗面器に顔をつけて耐える」という苦痛は、人間にしか引き受けられません。

AIは計算はできても、責任や苦痛を引き受けることはできないのです。だからこそ、理屈を超えて決断し、耐え抜く「人間力」のようなものが、これからの勝負を分ける決定的な差になるのではないでしょうか。


今日からできるアクションプラン:サンクコスト・チェック

今日からできるアクションプラン:サンクコスト・チェック

最後に、私たちが今すぐ実践できる具体的なアクションプランをご提案します。それは「サンクコスト・チェック」です。

何かをやめるかどうか迷った時、自分自身にこう問いかけてみてください。

「もし、まだこれに手をつけていなかったとして、今この瞬間、新しくこれを始めたいと思うか?」

もし答えが「NO」なら、それはあなたが過去のサンクコスト(もったいない精神)に縛られている証拠です。

「今日が人生で一番若い日」です。 過去に費やした時間やお金に縛られず、「これからの期待値」だけを見て未来を選び取る練習を、今日から始めてみませんか?


まとめ

今回は藤田晋さんの思考技術から、以下の3点をご紹介しました。

  1. 勝負は「期待値」で判断し、ダメなら過去を切り捨てて「撤退」する
  2. 不調な時は「洗面器に顔をつける」ように耐え、潮目が変わるのを待つ
  3. 立ち上げは「直感」、運用は「データ」で使い分ける

この本は、ビジネスマンはもちろん、何か新しい挑戦をしようとしている人、あるいは「やめどき」に悩んでいるすべての人におすすめです。

勝負の世界は残酷ですが、同時にシンプルでもあります。 押すべき時に押し、引くべき時に引く。

あなたは今、洗面器に顔をつけて耐える時期ですか? それとも大きく勝負に出る時期ですか? ぜひ、今の自分の状況を冷静に見極め、次の一手を決めてください。

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